ミナ(仮名、25)のマンションを訪れた人はみな、「植物園みたいだね」と驚く。
サボテンなどの多肉植物を栽培するのが趣味で、一人暮らしのマンションで200近いプランターを育てている。
父親の転勤で、少女時代をオーストラリアで過ごし、砂漠地帯で育つ多肉植物の「孤高な美しさ」にはまってしまったのだ。
帰国後に日本でも多肉植物の愛好家が多いことを知り、自分で栽培するようになった。
プランターが50を超えた頃、実家の両親から「これ以上はもう増やさないで」と言われて家を出た。
東京都心の職場まで通勤に片道1時間半かかるが、バルコニーとリビングの広い2LDKマンションを借りている。
ミナの恋人オサム(仮名、24)は、少年の頃からとにかくファッションが大好きで、それが高じて今ではアパレルで働いている。
とくに靴は「一目ぼれ」したら絶対買うことにしていて、今では300足になってしまった。
一人暮らしする1DKのマンションは、靴と洋服であふれかえっているのだが、古くなった物も「リメークして使えるかも」と思ってしまうので、どうしても捨てられない。
実家も狭い団地なので、荷物を置いてもらうことは難しい。
2人はミナのマンションで開いた、ホームパーティーで知り合った。
オサムは以前から「かわいいのにサボテンに囲まれて暮らす変わった女の子がいる」と聞いて、なぜか興味を引かれ、一度会ってみたいと思っていたのだ。
多肉植物栽培に夢中で、ほとんど男性と付き合ったことのなかったミナも、オサムとは不思議と気が合って、付き合うようになった。
2人は結婚を意識しているが、問題はお互いの荷物の多さだ。
2人とも「結婚したら、趣味の物は捨てさせられてしまうよ」という話を前々から聞いていたので、自分にも相手にもそれはさせたくないと思う。
しかも、ミナは多肉植物をまだまだ増やしたいし、オサムの靴と洋服もどんどん増えるだろう。
オサムは不規則な勤務なので都心に住みたいが、それではミナの希望である、バルコニーの広いマンションは無理だ。
派遣社員のミナと小さなアパレルで働くオサムの給料は、趣味のために赤字気味でもある。
「いつかは古着と多肉植物を一緒に置く店をやりたいね」という夢もあるのだが、一緒に暮らすことさえままならず、「宝くじが当たらないと結婚できないかも」と、冗談半分に話す。
親や周囲の人たちは「サボテンだの洋服だのと、結婚とどっちが大事なの」と言うが、比べられるものではないのだ。
(朝日新聞 結婚未満の記事より)